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東京高等裁判所 昭和54年(ラ)893号 決定

抗告人

有限会社東屋商事

右代表者

上條慶信

主文

原決定を取り消す。

本件競落を許さない。

理由

抗告人の申立は、「原決定を取り消し、更に相当の裁判を求める。」というのであり、その理由は別紙抗告理由書記載のとおりであるが、そのいうところは要するに、「鑑定人が競売不動産を評価するには、当該不動産の位置、形状など一切の事情を参考にすべきであり、殊に本件の場合、競売の目的たる本件不動産は、市街化調整区域内に存在するのであるから、それをも考慮して評価すべきところ、鑑定人は、本件不動産の評価額を算出するにあたり、右事実を考慮していないから、右評価額は高額に過ぎるものというべく、したがつて、右評価額に基づいてされた本件競売手続は、競落人に多大なる損害を被らせることが明らかであるから、本件競落許可決定は取消を免れない。」というにある。

よつて考えるに、記録によれば、本件競売不動産は、雑種地三、三七五平方メートルであり、千葉地方裁判所佐倉支部執行官は、昭和五一年六月一四日付をもつて本件不動産につき、近隣地域の状況を調査したうえ、近隣類似地区の取引事例を収集し、時点修正、事情補正を実施し、世評価額をも参考にして、価額を三、三七五万円と評価する旨の評価書を提出したこと、右評価書には、本件不動産についてなんら公法上の規制がなく、最有効使用は畑もしくは宅地である旨記載されていること、原裁判所は、右評価額をもつて最低競売価額と定めて本件不動産を競売に付したけれども、昭和五二年四月四日午前一〇時、昭和五三年一月一八日午前一〇時、同年一一月一日午前一〇時の各競売期日には競買申出人がないため、競売が中止されて、順次、最低競売価額が約一〇パーセントずつ低減され、昭和五四年六月一三日午前一〇時の競売期日において、最低競売価額を二、四六〇万四、二〇〇円として競売に付したところ、抗告人が右同額をもつて競買の申出をしたので、原裁判所は抗告人を最高価競買人と認めて競落許可決定をしたこと、が認められる。

しかし、抗告人が当審において提出した成田市長作成の証明書によれば、本件不動産は都市計画法にいわゆる市街化調整区域内に存在することが明らかであるところ、市街化調整区域は市街化を抑制すべき区域であつて(都市計画法七条三項)、その区域内においては、建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で土地の区画形質を変更するいわゆる開発行為(同法四条一一号)をするには、法定の除外事由のない限り、都道府県知事の許可を受けなければならないと定められている(同法二九条一項)ため、同区域内に所在する土地は、そうではない土地に比べて利用方法が制約され、その結果取引上も市街化調整区域内の土地の価額はそうでない土地のそれよりも低減する傾向にあることは公知の事実である。

ところで、不動産競売において、最低競売価額を定める趣旨は、不動産の公正妥当な価額を維持し、不当に安価に競落されることを防ぐことにあることは勿論であるが、他面、不動産の適正価額を示して競買申出の基準を示すことも、その目的にあると解するのが相当である。したがつて、最低競売価額が不当に低廉である場合と同様、不当に高額の最低競売額が公告された場合も、競売の公正を害するおそれがあるから、適法な最低競売価額の公告がなかつたものとして、競売法二九条、民訴法六五八条六号に違反し、競売法三二条二項民訴法六七二条四号の定める場合にあたるといわなければならない。そうだとすると、本件不動産につき、これが市街化調整区域内に存在することを看過してされた評価は、不当な高額をもつてされた疑いがあり、右評価は適正に行われたということはできない(記録によれば、本件競売記録は抗告人らの閲覧に供されたことが明らかであり、したがつて、抗告人としては、本件不動産がなんら公法上の規制を受けない土地であり、前記最低競売価額は右事実を前提として定められたものと判断して競買申出をしたものと推認するに難くない。)。それゆえ、右評価額に基づいて最低競売価額を定めた本件競売は、適法な最低競売価額の決定、公告を欠くものとして違法というべきであり、本件競落は許されないといわなければならない(最低競売価額が競買申出人のないため順次低減されて抗告人が当初の最低競売価額より約二割八分も低減された価額をもつて競買申出をしたことは前記のとおりであるが、右事実も前記判断を左右するものではない。)。

よつて、本件抗告は理由があるから、原判決を取り消し、本件競売を許さないこととして、主文のとおり決定する。

(森綱郎 新田圭一 真榮田哲)

即時抗告の理由〈省略〉

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